それはとても不思議な体験でした。
大学卒業後、何をしたらよいのか悩んでいる僕を、友人たちが長野への旅行に誘ってくれた時の事です。
夜行列車に乗り、久しぶりに会った仲間たちと話がはずみ、やがてしゃべり疲れてうとうと・・・。
そしてなにげなく車窓の外に目をやると、朝靄の中に山の木々たちが浮かびあがり、枝葉を広げて僕に微笑みかけているのです。
おだやかな表情で、やさしく語りかけてくるようでもありました。
将来への希望もなく、ぽっかりと穴のあいたような僕の心を、ゆっくりと暖かくそれは幸せな想いで満たしてくれました。
その時、確信したのは「僕は今、彼らと心がつながっているんだ」ということ。
そしてなにか言葉にはならない大きな力の存在を感じました。
その後、二度と同じような体験はありませんでしたが、毎日の生活では、植物たちにそれまでには感じたことのないような美しい表情が見えるようになりました。
と同時に、当たり前だと気にも留めていなかった植物のいろいろなことがとても心にかかるようになったのです。
「葉はなぜ、緑色なんだろうか?」「新芽はどうして赤いものが多いのだろうか?」
「秋に、美しく紅葉するのはなぜ?」「林の中をあるくと、どうして気分がよくなるなるのだろう?」
「みかんの花の香りをかぐと若々しい気分が蘇ってくるのは、どうして?」
など、次々と湧き上がってくる疑問・・・。
この疑問を考えるために、僕は植物と身近にいる事の出来る、この仕事を選びました。
あれから30年の月日が流れました。
断片的な疑問は、少しずつつながり、形をもちはじめています。
人にとってここちよいことは、植物と深い関係がある。
人と植物も、そのほかの命あるものも、それぞれどこかでひとつにつながり、地球という星そのものも生きているということを、とても素直に受け止めることができるようになりました。
僕はここちよいものをつくることが楽しい。
このことを通して、多くの人と出会えることが嬉しい。
同じものは二つとない、その土地その人に一番似合うオートクチュールの庭を丁寧につくり続けていきたい。
そして、施主はもちろん庭をご覧いただいた方々にも、植物やそのほか命あるものと、どこかひとつなんだという、あのとき僕の感じたあたたかく幸せな想いを届けることができたなら・・・。
あらためてそんなことを考えながら、僕はなんて素敵な仕事に巡り会えたのだろうと、
今、そんな気持ちでいっぱいです。
エービーデザイン株式会社 代表取締役
正木 覚







